妻の仕事場の後輩連中が、家に遊びに来るという。
どうも、開放的な我が家をずいぶん気に入ったようで、
トイレなんて、風を通すために一日中開けっ放しだもんね。
てなもんで、にぎやかな美人女子軍団がやってくる。
美人はいいが、オレなんかがいるとあれかなと思い、
来る時は自然体風で毎回出かけるようにしている。
オレなりに気を使っているのだ。
女性は恋の話やら、なんやら色々ある。
うちの妻はそういう面倒くさい話が好きじゃない。
けれど、年下がせっかく自分から来たいと言うので、
嫌な顔ひとつせずに、若い子の悩みを聞いてあげたり
良い話し相手になってあげている。
いいおばさん先輩なんだろう。
オレは、そういう女の話はわからないので
「海でも見てくるわ」とささっと旅支度をして
今朝も早くから車に乗って家を出た。
久しぶりに銚子の海へ行くことにした。
東京の首都高を走ったけど
東京は38度だった。
銚子の突端の集落に家を借りていた時期があり、
毎週末になると、その家に東京から行っていた。
リスクはあるけれど、
実際に気に入った地方の場所に住んでみて、
その場の暮らしや景色を感じてみないと
一度きりの人生を楽しめない。
という気持ちが若い頃からあった。
老人になって仕事をリタイヤしてから、
さぁ時間も出来たし旅に出ようと思っても
もう、体力も鮮度も落ちているから
さほど楽しむ意味もないだろうと思っていた。
伊豆七島の大島と千葉の鴨川にも住んだことがある。
石垣島にも、もちろんいた。
考えてみたら全部海の近くだった。
何故か、今は初めて山裾に住んでいる。
全国くまなく旅をしてみたが、
日本の景色は様々で面白い。
各地の方言が良いし、
それぞれの土地に住む人々の表現や雰囲気も全部違う。
日本の旅は良い。
四国だけは、まだ行っていない。
四国は、中途半端に来るなよという
何故か、ごつい感じがするからだ。
時期を見て、ひとりで行ってみたい。
今日の車の標高データでは、銚子の借家は海抜5メートルだった。
隣に住んでいた、漁師の爺さんが言うには、
東日本大震災の時、オレはいなかったが、
家の前の灯台の突端から左の
茨城方向が津波で全滅だったそうだ。
覚悟はしていたが、運良くこの集落には波一つ来なかったと言う。
けれど、あんな波は初めて見たと何度も言うので、
オレも怖くなって、住むのをやめた。
今日見た家の前の景色は、以前と変わらぬ静かな海だった。
いつも、休みになるとここへ来て、
誰もいない海を見ながら酒を飲み
この海の波の音を聞きながら
クーラーもいらない海の風と波の音が最高で、
小さな風呂場から見える目の前の海がじつによかったのだ。
海の家の近くに、おばちゃんがやっている
500円の美味いラーメン屋があったけど、
残念なことに、もう無くなっていた。
小さな、娘と二人で行くと、
いつも、丸干しを焼いてくれて話をした。
孫の使わなくなった玩具なんかをくれたのだ。
ここは、漁港も近くで、
隣の漁師の爺さんが、毎週行くたびに魚をよくくれた。
オレはその魚を捌いて晩飯のツマミにするのが好きだった。
魚の干物を干す金属の網なんかも自分で作っていて、
色々見ながら教わった。
海の近くに暮らす人は、外海に慣れているので、
人をすんなり受け入れる気質がある。
景色が人を作るということだろう。
散歩をしていたら、小さな店が開店していたので
腹も減っていたので入ってみた。
銚子に来たからには、魚だと思うけど、
まぁいいやと思い、カツカレーを頼んだ。
清潔ないい感じの店だった。
お姉さんもやんわりといい感じだった。
カレーも普通の家庭のカレーでよかった。
オレが山で仕入れてきた甲州牛シリーズが、
海風で人気があるらしくとても嬉しい。
なんで、肉を仕入れに山に向かうかね?
と、いつも思うけれど、
なんだか、いちいちおかしな合理的では無い
めんどくさいことをやったり
馬鹿かおまえは?と、人は感じるだろうなとか、
直感で思いついて必死の自分が、
歳をとってくるとくすくすと笑えてくる。
若い頃には自分を許すことが一切無かったんだけど、
歳を取ると、自分を愛おしく感じる気分になるんだよ。
おまえアホなのによく生きてこられたなと。
明日は、銚子の市場で魚を仕入れて海風へ持っていこうと思います。
お盆だからあるかなぁ。
では、近くの居酒屋調査に行って参ります。
あっ、忘れてた、
オレこいつら好きなんです。
こいつら頭が寝癖でしょ。
オレなんか髪形気にしたこと無いし禿げても全然いいし、
寝癖なんか大好きな彼女の前でも平気だったしね。
寝癖のやつって、殴りたくなるんだけど、
結構いいやつ多いんだよ。
これほんとだよ。
こいつら、約束まもんない顔してるっしょ。
男はこんなんでいいんだよ。
The Felice Brothers / Her Eyes Dart Round