吐きだめ日記 Part2

海風店主 深堀貴司

夜の果てを掴み取る旅vol.982

昔からどんなに楽しい酒の席であっても、
必ずオレの三次会がある。
一人でふらりと酔に気をつけながらもまた呑みに行く。
この静かな一人反省会。
何処かいつも愛おしいひとり反省会。
これが自分の素質を築いてきた気がする。

海風の一人客のお客さんも、
昔からそんな感じがする人が多い。
皆、判ってらっしゃって頭がいいのだろう。

昔から言われている居酒屋というものは
雰囲気をお客さんが店を作ってくれる。
というのは全部嘘。
自分を含めお客さんという輩は
自分の好みに合う店を探すだけのこと。
雰囲気が自分に合わないなら行かない。
店の良し悪しではなく、それだけのこと。

一切店に要求しないのが、酔客の本質だと思う。
頭のいいお客さんは常連と言われるのを嫌う。
ただただ、呑みに来ているだけの事。
と、自分で判ってらっしゃる。
酒好きとはそういう人。

若手の頃、生き様が格好のいい上司に
おまえは居酒屋ばかりで飲んでいないで
給料が入ったらひとりで高級ホテルで一杯呑んで
ロビーのソファに座って、ずっと人間観察していろと言われた。
素直にひとりで何回かそういうのをやっていた。

彼女ができたら高級ホテルのラウンジバーに連れて行って
必死で口説いて、この女は違うなと思えば
支払いを済ませて、手は出すな
そういう練習もしとけ。
と、言われた。
若手の頃は、金もないのに必死だったが、
今思えば、大先輩の言うとおりで
いい女を見抜く練習にはなっていた。
岐阜商人の心得みたいなものだったんだろう。
その人は三重県の人間だった。
イカしていた。

家族と楽しい飲み食いのあと、
いつものようにふらっと一人で街に出て
新しくできた立派なホテルへ行き
お試し地ワイン飲み比べというのに心が動かされた。

チケットを購入して下さいというので、
白ワインをお試ししてみた。
しかし、冷えた大きなワイングラスの割には量があまりにも少ない。
ホテルマンにこんなものなの?
と聞いたら、お試しなので、、と、言われた。

まぁ、しょうがないかと思いながら
数種類の白ワインをパカパカ呑んでいた。
温泉もそうだが、以前山梨の全銘柄の蔵元へ行き、
全部ボトルを一本ずつ買って呑んだので
飲み比べと言われても、
山梨のワインは全部美味いのは分かっっているので
ホテルの雰囲気や客を観察していた。

あんまり呑むと帰れなくなると思いながら
パカパカ呑んでいた。
そうこうしているうちに、
グラスに映った照明が奇跡のように輝いた。
酒も美味いし、なんだか嬉しくて
全部掴み取るようにシャッターを切った。
若手のアホな頃を思い出しながら、
ひとり静かに56歳。
じつに美しい夜だった

ザ・リプレイスメンツ「それが始まった時」
The Replacements / When It Began