吐きだめ日記 Part2

海風店主 深堀貴司

潮風と飛沫

島旅でこんなに海が荒れたのは初めて
港を出て1時間15分の間
ずっと波で三メートル船体が上がっては
コンクリートのような海面に叩きつけられ続けた感じであった

負けてたまるかと、波に合わせるように息をして
だんだんと犬のようにベロ息をして
なんとか吐くのを我慢した
きつすぎるし、きつすぎた
島に到着と同時に明るい声のアナウンスのテープが流れる
「ようこそ飛島へ、、」と軽快なBGM
地下で政治犯が拷問を受けて、もういいから帰れ
と、言われた瞬間の感じだった

オレはもう腰が抜けて立てなかった
乗客の殆どは顔面蒼白、吐いている女性もいたし
横に座っていた二十代の女性ふたりは顔色が色白に変わっていた
「すごすぎる、もうむり」と、二人の会話はそれだけだった
何度も周りの状況を見ていたが
地元の人は皆座席を3つ使い到着するまで
気持ちよさそうにずっと寝ていた
圧倒的なダイナミクスだった

ザ・飛島

海底火山の噴火が積み重なり島ができた
江戸時代初期に島の名称が飛島となる
飛島は、古来から北と南との重要な文化の交流拠点だった
山形県酒田港から北西39km標高平均50mのほぼ平坦な大地
面積2.7㎢一周12km
気候は対馬暖流の影響を受け暖かい
島の人口は119世帯204人
荒崎海岸は日本の渚100選

帰りの船まで三時間
気持ちが悪いので写真を撮るきもしない
とにかく歩こうと考え、荒崎へ行く道を婆さんに聞いた
「そこの浜をずっといけばべええ」
素晴らしい道案内だった

歩いているうちに気持ち悪さも落ち着いてきて
やっと水を飲めた、写真も撮りだした
時間を考え、必死で砂利道を歩く、ほぼ砂浜は無かった
往復5キロ、日頃歩いているのでなんとか行けた
全身汗だく、気持ち悪いよりはマシだと言い聞かせ必死で歩いた
海沿いを歩くのは、砂利、石、海藻、階段、修行だな
人生の様に平坦はない、全身の力がいる
往復で5キロ、港に着くまで何度も振り返ったが
全く人間を見ず、会ったのは蛇二匹だった
こりゃ、疲れて倒れたら死んでたな

港で仕事の休憩中のおっさんが、イカを釣り上げていた
「あっ釣れた、、」
汗だくのオレは、あのなぁ〜のおっさんだった

根っこから心配症なので、帰りの恐怖を考えると
極力水も飲まず、飯も食わなかった
猫も笑っていたようだ

ビクビクしていたが帰りは、海面叩きつけの刑もなく
甲板で海の潮風を感じながら犬息もせず写真を撮っていた
隣りにいた観光のおっさんが、離れていく飛島を見ながら
都会へ帰ったらまた仕事か〜と
なんだか女にふられたようなセンチメンタル表情をしていた
余韻で生きるなっ!全部消せっ!どんだけ自分が好きなんだっしっかりしろ!
と、言いたくなった

無事に酒田に到着した
潮で身体がべたべたするのでトイレで顔を洗ったら
髪形がばっさばさ〜と膨らんでいて
探偵物語の松田優作の頭みたいになっていた
思わず鏡に工藤ちゃんね〜とごますり成田三樹夫風になってみる
全然似てなかった
なんだか喰うのもめんどくさくて
飯を食わずに車に荷物を積み込み160km先の新潟へ向かう

日本海は怖いほど圧倒的な自然界だった
いい勉強になった
そして、静が見えてくる

高速をはずれ、海沿いの笹川流れを走ることにした
潮風とカモメと夕日が見たかった
美しくロマンチックな夕日が続いていた
助手席には女性ではなくクーラーボックス
あまりに夕日が綺麗なので
トラックの運ちゃんも速度を緩めて見ていた
みんな景色で心もほっとするのだろう
車の旅はこういうのがいい

新潟に着く、風呂に入りほっとする
新潟へ来たらいつもここの居酒屋で地酒を呑む
運動になったいい旅だった

仁淀川イトウの選曲
おやじの海 村木賢吉