こないだ車のブレーキを踏んでも全然エンジンが掛からないので、
ディーラーに電話して来てもらった。
整備の人が何度も踏み込むと治ったが、
心配なので持って帰り、整備すると言うので待っていたら
ごっつい積載車でやってきて運んでいってくれた。
車の後ろ姿を眺めていると、
「もうあなたとはやっていけません、暫く実家に帰らせていただきます」
て、感じの嫁のような姿だった。
たぶん、女に切られる去り際は、
料理もできないし、これからどうやって日々を送ろうかと、
虚しいこんな感じだろうなと、駄目な男の感じを味わっていた。
はて、連絡もなく一週間経っても帰ってこない。
たぶん今頃、整備室の涼しいコンクリの部屋で
「もう草の上は嫌っ!」と言っているに違いない。
たぶん、気が強いのでスマホの電話帳も全部消したに違いない。
そんなんだろうなぁ、まぁしょうがないな、と馬鹿顔で待っていた。
やっと連絡が来たと思ったら、
ブレーキを分解して調べておりまして、
東京の本社から部品を取り寄せてデーターを調べながら
もう一度点検します。
もう暫く時間をくださいと言う。
えらいことだなぁと思った。
たぶん会社もリコールとかになると物凄い赤字を喰うので
徹底的に調べているんだろうと思った。
数日経って電話が来て、
「細かい部分を説明させて頂きたいので来店してほしい」
と言う。
まるで医者に「覚悟してください」と、
最後通告を聞きに行く感じで緊張してしまった。
これは、早めに再婚しないと
洗濯物とか、たたむの下手だし
やばいな、そこまで考えていた感じ。
昔から車のメカには全く興味がなく、
自分でボンネットも開けたことがない。
新車を買うときも、家人に相談したことは一度もない。
毎回、野菜を買うように車を買ってきたので、
家族が帰宅すると、
「ぐわっ!新車だ!誰か来てるのっ?」
「あっ、車買うた」
毎回こんな感じ。
よく走れてオレが見て外見が良ければいい。
全く車に興味がないのだ。
話を聞いてみると、どうも、オレのブレーキの踏み込みが甘いらしい。
そうか、信号待ちで止まるときも、ギュッと踏むと車が痛がるかと思って
いつもゆるい。だから白線を少しオーバーするのだ。
だからといって事故に繋がるわけではないし、
いつも車に負担をかけないように安全運転だし、
車はいつも自分で手洗いしてきれいにしているし、
問題ないと思っている。
でもディーラーの人曰く
「なるべく全部踏み込んでください。
ポンプが甘踏みになれて、踏み込みが固くなるんです」と、おっしゃった。
「わかりました、これからは全部踏む感じで行きますね」
やれやれと、車を自宅に連れて帰った。
困ったもんで、ふと、なるほどなと思った。
オレは店でも家でも、なんでもユルじめの癖がある。
気持ち悪いと、皆に注意される。
店の酢も、家の酢も、ユルじめしてしまうので、
共に、バシャッとこぼれたことがあって、物凄い叱られる。
子供にも「あっユルじめだっ!犯人はとうとだっ!」
と、バレている。
わざとじゃないし、笑いを誘っているわけでもない。
何故かユルじめになる。
きちっとしたいくせに、ゆるゆるだ。
性格が矛盾しているのだろう。
オレが一度、冷蔵庫のドレッシングを傾けたら案の定こぼれてしまい
「だれじゃっ!」と怒ったらオレだった。
アホすぎて話にならない。
車に乗って人が変わる人がいるが、そういうのも全く無い。
東京へ行くときも90km以上は、ほぼ出さない。
急いで行っても、運転に気を使い疲れるだけだと分かっている。
後ろから抜かれてイラッとする人がいるが、オレはなんとも思わない。
そういうところはどうでもいいのだと思っている。
去年から、一時停止で警察官によく捕まる。
あれは罰金七千円で、二点引かれると警察官に言われた。
オレが停止線で止まっていないというのである。
昨日も東京へ行った折、店前に着いた途端に警察官が走ってきた。
またかっ、もう去年から四回目だ。
声を荒げたり、威嚇したりオレはそういうことはしない。
無駄な抵抗はしないし、常に冷静だ。
しかし、根がパンクなので、相手が権力的に来ると
絶対に食い下がらない。
これは昔から、自分への正義心だと信じている。
昨日も徹底的に反抗した。
「止まっていないと君は言う、だけど見たのは君の目線だろ?
オレは危ない場所だと思っているし、毎回停止線を見れば
ブレーキを踏むんだよ
オレの目線では止まったんだよ、お互い人間の目線で見てるわけだろ?
それで君が止まっていないと絶対的に見るならばだな、
人間に絶対はないはずだろ?
それはオレから見たら
一方的権力に見えるんだよ、
だからオレは完全に君の組織に抵抗するよ
何枚でも切符を切れ、イラッときたなら、ほらすぐ切れ、
オレはその紙キレを全部捨てるし、裁判所にも出廷するよ
それで文句はないだろ?君は仕事をしたまでだ」
彼は言った
「踏んでいないと認めてくれればいいのですっ!」
オレは言った
「ブレーキランプを見ただろ?踏んでるんだ止まったんだ」
と言うと、彼は右足を地面に強く2回踏み込みながらオレに言った
「完全に止めてください!
全部っ!全部っ踏んでください!
踏み込んでくださいブレーキをっ!」と、言った。
彼は「全部踏んでください」と言って帰っていった。
途中、彼の話を聞きながら、
ディーラーの、「なるべく全部踏んでください」と、
「ユルじめで叱られる構図」が、オレの意識の中で
冷静に一致しているのが、
映像のようにスローモーションで脳裏に出ていた。
オレはずっと野菜のダンボールを持ったまま、彼に話していた。
腹を刺されるわけではない。
いつも慌てず冷静にしていればいい。
店でイトワが話を全部聞いていたようで
ダンボールを置いた瞬間、爆笑していた。
「凄すぎるっ!あの大声振り上げないやりとりと、
警察官のあの感じは初めて見た」
「あのなぁ、オレは遠くから東京でキレに来たわけじゃないからな」
彼にはしんどい思いをさせたかもしれないが、
自分の意見は間違っていないと思うなら、
権力に抵抗するのが男だ。
人間には間違いもあるし、しょうがないときもある。
外国では抵抗はあたりまえ、権力に従わない。
皆そうだ。
四回中これで三勝一敗。
一敗は、銀行の大事な打ち合わせ時間に遅れそうだったから戦えなかった。
人を待たせるのが嫌いなだけ。
終わったことは気にしない。
運が付いて来た。
こないだ言っていた、オレの最高と思う桃を造る農家さんが、
桃をくれたんだ。
「金はいい、要らないよ」と、
さすがだ、あの人本物だ。
しかも、たぶん人間嫌いだ。
嬉しかった。
冷して喰った。
氏のモノづくりの優しさが味に出ていた。
最高だよ、本物だったよ。
外で桃の写真を撮っていたらガキが、写真を撮れと寄ってきた。
お前たちも、本物の女になれよ!
オレは自分が本物なのか?
いつも自分を探しているんだよ。
死ぬまで、オレは死んだままだけどな。
じゃあな、あばよ!
トムブロソーで「思い出にゆだねる」
Tom Brosseau / Committed To Memory