どうも相性のいい歯医者が無い。
一月かけて治した奥歯の近くがまた痛みだして
深夜から眠れなかった。
性格なのか、やたらに人に気を使う。
施術されながら旨く痛みの部分を説明できない。
なんだか気を使ってしまい、ついつい男なので我慢してしまう。
「痛いっ」と言うのが、恥ずかしくてなかなか言えない。
心のなかで、「お前は男だろ!痛みの一つくらい我慢しろ!」
と、心の神様がいつも言う。
もう別の歯医者に行ってみようと、探して行ってきた
電話予約が苦手なので、なんでも突然行ってみる。
いくら、待ちますよと言われても
いいですよと、急ぐことはない。
ぼんやりと窓の外の景色を眺め、
考え事をしながらゆっくりと待つ。
電車の中、人と会うとき、呑み屋、待合室。
時間潰しのように、携帯を触らない。
機械類やスマホは、ただの道具。
人間生活の中で、絶対必要だとは思わない道具と
機械類は見下している。
時間潰しのようにスマホは絶対いじらない。
家族にも、人に対して失礼だから、
人と話す時は触るな、チラ見もするなと言う。
子供にスマホやデバイスを与えて、ゲームをさせて
夫婦が会話をしているのをどこでもよく見かける。
モノで釣る、買い与える、そういう親は最悪だろう。
観察眼もなにもない子供に育ち、親と同じ様な思考で生きる。
それらの景色は見ていても、
日々の心臓をつくようなギャグと笑いの家族の会話が無い。
子供はつまらなそうにスマホをいじり、
母親もスマホをチラ見。会話に発展性がない。
電車の中まで同じ姿。
そういう景色を我が子になるべく見せたくはない。
子供という生き物はいろんな天才的な観察眼がある。
聞いているだけで面白い。
オレはいちいちそういうところをいじるので
何処でも話がどんどん発展する。
特に居酒屋に連れていくと面白い
「とうとさん、あの人同じサワー呑んでるよ!
しかも、でっか大ジョッキだよ!あれは重そうだな、
負けちゃ駄目だよ、ありゃ敵だね
中ジョッキじゃなくてあれにしなよ、量と値段を考えても
あっちが得だよ、あれにしな!」
「まだ呑んでるからいいよ、うるせぇなぁ〜
男はな、静かに呑みたいんだよ、
オレなんか手をこうして真逆でも呑めるから、
ほらね、あいつ出来ないと思うよ、聞いてみな」
と、アホな感じで呑んで見せると、
「ぎゃはははは、やめてやめて、恥ずかしいから」
と、結構ウケる。
「真面目な話を真面目にするのは練習すれば馬鹿でもできる。
会話には、笑いとコミュニケーションが一番大事なんだ」と、
20代の頃、義理堅く優しい先輩に教わった。
その人は、人類学を学んでいた。
変態の話や、豊かな話を、酒場で聞くのが面白かった。
今でも、そういうことを大切にしている。
そこの歯医者は今どきのモダンな作りではなく
壁もなくて、アットフォームな感じで
客と助手もゲラゲラ笑いながらアナログな感じで良かった。
受付の女性が、頭に向けて計る体温計がうまくいかなくて
「あれ?あれ?まただめだ、ごめんなさいねおかしいな」
その繰り返しで、エアコンに近いからだのなんだので、
まるで昔のテレビのリモコンの
わけがわからぬ生活の知恵の押し方みたいで面白かった。
もらった診察カードのセンスがよかった。
痛み止めの薬をもらいなんとかなりそうだ。
今日は一日、上の娘とうどんを食いに出かけた後は二人で家にいた。
オレは一度も、勉強しろ宿題しろと言ったことがない。
無理にがんばって会話もしないし遊ばない。
自分が子供の頃、言われて腹がたった事は言わない。
親として、一切頑張らない。
君は君オレはオレ。
子供ではなく人として接する。
彼女のクラスでは、皆塾に行っているそうだ。
親が決めることではないし、君の人生だから自分で決めろ。
と言っている。
彼女は塾には行かないそうだ。
一人でいるのが好きで、おとなしいけど負けん気が物凄く強い。
オレと違い成績優秀頭も良い。
一度、東大卒の人間と酒を飲んだことがあって、
互いの子供の育て方の話をした。
お世辞だと思うが、
「オレの育て方は、素晴らしいと思う」と言ってくれた。
彼曰く、
「塾に行くのは勉強が出来ないので行くのであって、
塾は試験のプロ集団ですから、
試験で受かるテクニックだけを教わるわけです。
それで試験で合格してもそれだけのことです。
そこで、人間性が豊かになるとか勘違いする親がいますが、
そういうことではないんです。
まぁ、勉強のできる子は、自分で考えてやるので
塾も行かないで一発で志望校に通るんです。
そういう人が、全国からわんさか東大に来るんですけど、
こいつ狂ってると思う位の頭脳のやつがいるんですよ。
僕から見ると頭おかしいですよ」
彼は笑いながら言った。
オレは口を開けて
「はっあ〜っ」と言うだけだった。
うちの上の娘は変わっていて、集中している時は
オレの話も聞こえない。「なんか言った?」と言う。
欲しい物も特に無いという。
誕生日になんかいるかと聞くと、「図書券」
自分の部屋も特に欲しいとは思わない。
着るものも大人が着るような柄も何もないシンプルな服。
ぎゃあぎゃあうるさい時は一度もない。
ず〜っと静かで、後ろにいても気づかない。
「うわっ!お前いたのか!なんか言えよっ」といつもこんな感じ。
今日も後ろでずっと本を読んでいた。
休みの日に本を読むのが最高の幸せなんだそうだ。
変わっている。
こないだ密かに時間を図ってみた。
おとなが読む文庫本を一時間15分で読んで。
「あ〜おもしろかった」と言って、パタンと閉じた。
子供は生まれたときから親を超えているんだな。
と、つくづく思う。
彼女の今の年齢とオレの子供時代のその頃を思い出していた。
オレは勉強もせずに、毎日野球に明け暮れて、
練習終わりに団地のスーパーで、友達3人と
キムチを3パック買って、仲良く必ず電話ボックスに入る。
パックを開けて皆手づかみで、
誰のが一番辛いのか、いつも勝負していた。
「辛っ〜うめぇなぁ〜ぐわっこりゃあ辛っ!」
「おまえの凄いなっ柄?柄で買ったの?」
「やっぱり練習後はキムチだよなっからすぎる〜っ」
今でも、あの電話ボックスの楽しい光景を覚えている。
馬鹿すぎる。
もっとどうにか、できなかったのか?
できることなら、あれとあれを取り戻したい。
もう取り戻す事はできないのだな。
東の川のパイプさんで「あの日を取り戻す」
Take Back The Days / East River Pipe