”花の億土へ”という石牟礼道子の
映画上映会を高円寺に観に行く
日本のレイチェル・カーソンと言われ
ノーベル文学賞に値する人
水俣病患者を題材にした作品で環境保護を訴え
数々の受賞を辞退して
この国の弱者に寄り添い
弱者を”現代の天使”と呼び
戦後の日本人の心の闇を描き出す様な
本質に向き合い続けたヒーロー
作家、石牟礼道子
亡くなって三年になる
彼女が、亡くなった日
日本の宝を失いましたと人様が囁いた
自然の中、小さく芽吹く
小さな花にも神様がいる
同感である
彼女の言葉のメッセージは素晴らしかった
石牟礼道子の作品の中に
”椿の海の記”というのがある
とても美しい本で
何度も初めの言葉を読み返す
“春の花々があらかた散り敷いてしまうと
大地の深い匂いがむせてくる
海の香りとそれはせめぎあい
不知火海沿岸は朝あけの靄が立つ
朝陽がそのような靄を
こうこうと染めあげながらのぼり出すと
光の奥から
やさしい海があらわれる”
映画の様に映像が浮かび上がる
この作品が好きなのだ
座高円寺という大きなシアターができていた
30年前の記憶を思い出した
この場所は、広い中華料理店だったはずだ
20代の頃、昼から会社の上司と
この中華屋へ行き
営業の商談前に、紹興酒の熱燗を呑みながら
青椒肉絲を食べた
このお店は里見幸太郎がオーナーの店だった
営業は、商談前に美味い飯を食いながら
酒を呑むというのが上司の基本だった
それを見習って色んな場所へ行った
上野の焼肉店で、一人ビールを飲みながら
大きなテーブルで焼肉を食いながら
酒を飲んで商談に行った
実に気分が良かったし売上も良かった
じつに、男になった気分だった
懐かしいバブル時代の思い出だ
30年前を思い出しながら
高円寺を歩いてみたら
毎日通った居酒屋やスナックの景色は無く
街の景色もまるで変わっていて
あの、薄暗いぼんやりとした
怪しい景色が無くなっていた
混雑した電車に乗り
小金井に戻りフカゼミ
どんどん古い街の景色が
消されていくのが寂しいと思いながら
紹興酒を呑む