吐きだめ日記 Part2

海風店主 深堀貴司

川上くんとの思い出

ずっと雨
アントニオ猪木が死んじゃった
あの猪木が、、
昭和の人が、どんどん亡くなっていくのが
じつに寂しい
訃報を聞いて一番に川上くんを思い出した

15歳の頃の高校の親友
川上くんはアントニオ猪木と
矢沢永吉とローリング・ストーンズ
この3つが宗教だった

土曜日になると
自転車で一時間かけて
川上くんの住む団地まで遊びに行った
川上くんはオレが汗だくで着くと
毎回、必ず小さなコップに
まぁまぁまぁお疲れと
サラリーマンの様に
アイスコーヒーを注いでくれて
二人で乾杯する
これが、二人のいつもの始まり
おかわり分は無い
延々と膝を突き合わせて
熱い話をするのが楽しかった

ふたりとも体重が58キロで同じ
川上くんは、猪木の関節技に詳しくて
カール・ゴッチやなんやらとやたらに詳しい
身体は細いのに筋肉が強かった
関節技で人を殺すやり方も説明していた
いつもちょっと技をかけさせてと言うので
ゆるくしろよといつもオレが受け身で
途中から興奮しだして
痛い痛いオマエ痛いってで関節講義が終わり
次は矢沢永吉とローリング・ストーンズの
素晴らしさを話し出す
体育の柔道の時間に
2クラス対抗勝ち抜き試合があって
川上くんは燃えていた
オレはヒョロヒョロで
弱すぎるのでやる気なし
関節技で勝つ気だろうとは思っていた
柔道部のごっつい奴らに挑んでいく
川上くんの眼は
猪木の眼力と同じだった
全員びっくりしていたが
オレは勝つだろうと思っていた
オレの順番になったので
耳元で関節はやめてくれと言ったら
クスクス笑いながら試合始まりで
いきなり倒され関節技だ
あの痛さを知っているので
かけた瞬間に大袈裟に
イタイイタイオマエ痛いってで
先生も止めてくれて
オレの弱さと面白さに
川上くんはくすくす笑っていた
川上くんは
二クラス全員を関節技で倒したのだ

次はオレの宗教
パンクの話とニール・ヤングの話
キューバ革命から何から何まで
オレは知っている自慢の始まりだ
15歳の話すことか?と思うけれど
パンクの熱さを語り
彼にエレキギターを教えたのもオレだった

一年後には、川上くんはオレよりも
ギターのテクニックが全然上手くなっていた
彼の宗教ローリング・ストーンズを
全部聞かされたけれど
まったく好きになれなかった

あの、中途半端に不良っぽい感じが
パンクの俺にはありえなかったし
歌い方が嫌いだった
いまでもローリング・ストーンは聞かない

矢沢永吉の”成り上がり”という
彼のバイブル本もくれた
彼は二冊持っていて
鉛筆で重要な部分に線を引いているのと
まっさらの”成り上がり本”

まっさらには
指紋もつけていないと言うので
オレが、いつものようにふざけて
いたずらして触ろうとすると
関節技をかけてくるので
全然触れなかった

”成り上がり本”を家で読んでいると
所々に蛍光ペンで線を引いて指示してあり
じつにたまらなかった
読後は、素直に凄い人だなぁと感心した

でも、川上くんが部屋でいつも
肩にかけていたYAZAWAタオル
あのタオルはいらないなぁと思った

ニール・ヤングは大好きだ
彼も多作で必ず毎年アルバムを発表する
ヨレヨレしたあの風貌も好きで
歳をとったらああなりたいし
クレイジーホースとの
近すぎる演奏も長すぎる演奏も
歳を取ろうが、男同士の熱い友情が
ガキの様に溢れている感じが好きだ

ギターの歪んだ音は
魂が歪んでいるからだなんて
たまらない言葉だ

川上くんとの友情を思い出すと
この歳でもうるっと涙腺に来る
川上くんは
クラスのあいつらと俺らは
レベルが違うと言っていた

お互いに地平線の様にピュアだった
川上くん
オレは、いまだに死んだままだ