朝九時
山水を汲み誰もいない目的の場所へ向かう
標高1538メートル
気温は、下界の10℃下
じつに涼しいが、寒くはない
今日は、不思議な体験をした
細い山道をぐんぐん登っていくと
野生の子狐がいた
じっとこちらを見ていて
車を止めて見ていると
子狐が走り出したので静かに車を進めた
振り返りながら子狐が走る
そのうちに
木々の間に子狐が消えた
妙な気分がした
速度を、またゆるめて走った
カーブを曲がると
太い木々が落ちていて
その先に直径60cmほどの大きな岩
道のど真ん中に3個の落石が転がっていた
背筋が震えた
まるで子狐が知らせた様だ
戻るに戻れないので
岩盤を眺めながら岩の間を通る
車は通れた
今落ちてきたら?
確実に即死だなと感じる
生と死は一瞬の明暗で決まる
もしも運命ならばと思い
明るい絶望の空を求めて進むことにした
進むにつれて、
山々は霧に覆われて
それはそれは美しい自然だった
目的の場所にたどり着いたら
空が晴れてきた
静かに周りを見渡して
タープを松の木にくくりつけた
涼しいので必要は無かったけれど
久しぶりなので準備した
弁当を喰った
湖の色は濃紺で
山の景色に見事に映えていたし
魂を洗い流すような澄んだ空気で
オレには、何も必要がなかった
子狐を考えていた
もしかしたら?
子狐は自然世界の代弁者?
”おい、この先へ行くのか?
貴様、覚悟はできているのか?
人間の領域と自然の領域は違うのだ
覚悟はできているのか?
人間ごときが、右往左往、、
自然世界の領域に来るものではない
人間領域の枠の中で生きておれ、、
人間には何も手に入らない
人間の領域を超えるな”
子狐が、確実にそう言っている様な気分で
ぼんやりと山々を眺めていた
雨が、ぽつりぽつりと降り始めた
コーヒーを飲んで
ゆっくりと荷を片付けて
静かに帰ることにした
そうか、自然界の領域か、、
なんだか、学んだ気がした
しばらくこの場所へ来るのはやめておこう
そう思いながら、山を降りた
自然は、恐ろしく美しい
下界に着いたら蒸し暑く
見渡す限り夏の空だった
それでも
人間の領域は好きじゃないし
必要ではないぜ