吐きだめ日記 Part2

海風店主 深堀貴司

音に景色が拡がっていく

一週間ぶりに自宅へ戻ると
家の中の雰囲気も匂いも完全に女子部になっていた
参ったなぁと思っていると
いつものようにうるさいほうが
通知表を持ってやって来て
今週あったことを全部話しだした
こないだクラスで100点とったのが
自分だけだったよと
プリントを見せながら
いつもの自慢話が始まった
結局は自慢話でオチがつくんだ
またや、と思いながらも
そうかそうかよかったねと
話を聞くだけ親父に徹する

続いては、妻が来て
腕の関節が、どうにもずっと痛いので
鍼治療を探していると言う
明日は仕事場で紹介された医者へ行くけれど
同僚に、おばさんなんだから
四十肩から腕に来ているのよと
あっさり言われたと
笑いながら顛末を長々と話すので
そりゃ困ったもんだな大変だなと
心底心配しているように聞いていた
オレの演技力は、なかなかのものだ

仕事部屋から皆が去って
ふ〜っと、思わずため息をついたが
ハッとして、こりゃいかんと思った
東京の部屋では声も出さずのひとりの日々
こんな時代だからと言っても
慣れほど怖いものはない

さて、置いていった通知表
開く気もしないですよ

しっかりしろ!忘れ物が多すぎる!
もっと頑張れ!的な大批判の文面は無く
ほんわかした褒め言葉の通知表だから
つまらないので、いつも見ない

中学の娘のクラスは皆塾通いだそうだ
今の時代は全教科順位が出ると言う
全生徒の総合順位まで出るそうだ

オレのような勉強嫌いの劣等生が
今の時代に生きていたら
学校なんて行く気が無くなるだろうな
あぁ生まれたのが、昔で良かったなと実感している
今なら、親父に倍殴られていただろうな

娘の順位を聞いてびっくりしたが
もうトップグループ集団に突入していた
言うには、塾に通う連中には負けたくないのだそうだ
皆、休み無く毎日九時過ぎまで塾通いだそうで
まるで、残業ばかりの勤め人みたいだ
親の期待を一身に背負い
可愛そうだなとオレは思うし
塾の年間値段を聞いてびっくりした

夜になると図書館で大量に借りてきた
好きな本ばかりを読んでいる
多読家の娘を見ていると
一体誰に似たんだろうなと思う
まぁ、将来の約束なんぞ無いのだから
自分で決めて、やりたいように
楽しく生きればいいと思う

うるさいほうが
ささっと、習字の月謝袋を
通知表の下に入れていたので
いつものようにイラっとしてしまう

安い人件費の海外に作らせないで、自給自足で鎖国しろと国に言え

家の周りの果樹園の桃の花が咲き始めた
地面のたんぽぽも咲いてきて
黄色とピンクの色が重なり
美しい景色が溢れてくる季節だ
オレは外に出て蜘蛛に夢中だった

今日は、ずっと発音できないJake Xerxes Fussellを流していた
多分歳下だろう
オレ、こいつ好きなんだ
彼の雰囲気がいいし音が痛くないし
あまり似合っていない帽子もいい
彼なら家に泊まりに来てほしい
麦酒とキムチは準備しとくから
ギターは持ってきてくれとオレが言う

麦酒を呑みながら、ギターの音色と歌を
気持ちよく聞くのだ
途中二人で酔っ払い麦酒も無くなる
オレは酔っ払っているので
おまえが買いに行けと言う

彼は優しいので
必死で発泡酒を買いに行くだろう
また歌を聞きながら
楽しい夜が更けていく
そんな感じだ

The River St. John /J ake Xerxes Fussell